ステージ

総論

[1] 肝臓について

内臓の中で一番大きい
肝臓は、私たちの体の右上腹部に存在する体内最大の臓器で、大人では約1500g(体重の2.5%)の重さがあります。(ご参考:心臓の重さは約250〜350g。大脳の重さは1300g前後。)
普通は右側の肋骨で覆われているため触れることができませんが、慢性の炎症が生じたり、腫瘍ができると肝臓が腫れて触知できる場合があります。
血液の貯蔵庫
正常な肝臓は赤褐色調をしています。これは肝臓が血液を多く含む臓器であるためであり、正常時には約300mLの血液が肝臓にあると言われています。
消化管と肝臓をつなぐ門脈は、栄養の通り道
肝臓には、門脈と肝動脈という二つの血管から血液が流れ込み、肝静脈から血液が排出されます。
門脈は胃、小腸、大腸のような消化管と肝臓を結ぶ大きな静脈で、私たちが食べたり飲んだりした栄養分、お酒、薬などが、主としてこの門脈を介して肝臓に運ばれます。肝臓の中で門脈は、類洞と呼ばれる毛細血管に分かれます。この部分で血液の中に入っている成分が肝細胞へと取り込まれます。
人体最大の処理工場
肝臓は人体最大の処理工場であり、私たちが生きてゆくために必要な成分を作ったり、貯蔵したりします。また、不要になったものを分解したり、排泄したりします。
肝細胞で処理された成分は、肝静脈へと流れ込み、下大静脈〜心臓を経由して全身へと運ばれます。
一方、ビリルビンや胆汁酸は肝細胞から毛細胆管を経由して、胆管、胆のう、さらには十二指腸へと排泄されます。
肝臓にはリンパ管もありますが、その働きについては未だよくわかっていません。

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[2] 肝臓の働き

栄養素の分解と、必要な成分の合成・貯蔵
人体最大の処理工場である肝臓では、物質の代謝が盛んに行なわれています。
タンパク質、糖、脂肪、ビタミンなど体に必要な成分を分解し、また生合成し、さらには貯蔵します。代表的な物質には、タンパク質のアルブミン、糖分であるブドウ糖やグリコーゲン、脂肪のコレステロールや中性脂肪、また、赤血球に含まれるヘモグロビンがあります。
有害→無毒へ、薬→分解して排出・有効な成分に変える
肝臓は、私たちの体に有害な物質を無毒な物質へと変えます。さらに服用する薬を分解して胆汁中に排泄したり、有効な成分に変えたりします。この働きの際には肝臓に多く存在するグルタチオンというペプチドが大切な役割をしています。
クッパー細胞やピット細胞などの活躍で、細菌やウィルスを除去
肝臓は消化管から流れてくる外界からの異物を除去する役目をしています。即ち、食べ物や飲み物に入っている細菌やウイルスが全身に回らないように、肝臓の免疫機構でそれらの異物を除去してしまうのです。
例えば、肝臓にはクッパー細胞という大きなマクロファージが存在しており、異物を貪食して消化したり、エンドトキシンを取り込んだりします。また、ピット細胞というナチュラルキラー細胞も免疫学的監視機構に参加します。
さらに、肝臓内の血管内皮細胞も特殊で、小さな粒子を取り込んで消化する力が高いことが解っています。
古くなった赤血球を分解して排出
肝臓は古くなった赤血球を分解し、含まれるヘモグロビンからビリルビンを作ります。ビリルビンは黄色い色素で、肝細胞から胆管へと流れて行きます。従って、目や皮膚が黄色くなる黄疸という症状は、肝臓の働きが悪くなったり、胆管が何かの原因でつまることにより、正常時は胆汁に含まれて排出されるビリルビンが、異常時は血液中に過剰に放出されてしまうことで起こる症状です。

[3] 肝臓の病気

肝臓は肝炎ウイルスの感染、お酒の飲み過ぎ、太り過ぎ、免疫が関係する病気、先天性の代謝異常、細菌感染などにより病気になります。
肝炎をおこすウイルスにはA型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス、EBウイルスなどがあります (B型肝炎とC型肝炎についてはそれぞれ【B型肝炎とその治療について】【C型肝炎のとその治療について】にて詳しく述べます) 。
A型肝炎〜汚染された水や魚介類を食べると感染。きちんと治療すればほとんど治癒
A型肝炎ウイルスによる肝炎は急性肝炎として発症します。A型肝炎ウイルスはウイルスに汚染された水を飲んだり、生かきなどの魚介類を食べると感染します。発展途上国など上下水設備が整っていないところに旅行する際は生水を飲まないことが予防として重要です。感染予防のためにはワクチン接種があります。急性肝炎を生じた場合でも入院して安静を保ち、点滴加療などを行えば治癒する場合が殆どです。
E型肝炎〜汚染された水や肉を食べると感染。劇症肝炎発症に要注意!
E型肝炎ウイルスによる肝炎も急性肝炎として発症します。A型肝炎と同様に便口感染により感染するので、ウイルスに汚染された水の飲用や汚染された肉を加熱不十分で生食することで感染します。日本では豚肉、イノシシ、鹿の生食による感染が報告されています。潜伏期間は2週間から2ヶ月程度といわれています。急性肝炎になると黄疸、食欲不振、肝腫大、吐気、発熱など急性A型肝炎と似た症状が出現します。治療法はA型肝炎ウイルス感染の場合と同じですが、時に劇症肝炎を発症する場合があるため、厳重な観察が必要です。
免疫が関係する病気
免疫が関係する病気としては、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎、原発性硬化性胆管炎などがあります。これらの病気では、まだ発症の機序 (メカニズムと過程) が十分に解っているとは言えませんが、自分自身で自分の肝臓を攻撃する免疫応答が生じていると考えられます。そのため、自己免疫性肝炎であれば抗核抗体、原発性胆汁性胆管炎であれば抗ミトコンドリア抗体、原発性硬化性胆管炎であれば抗好中球抗体のような自己抗体が出現し診断に使われます。これらの病気にはステロイドホルモン剤が有効であることからも、免疫が関与していると考えられます。

[4] 肝臓の病気を調べる検査

一般的にはまず、血液検査で肝臓が壊れていないかどうかを調べます。また、少なくとも年に1度、慢性肝障害がある場合は年に2度程度、超音波検査、CT検査、MRI検査などの画像検査をすることをお勧めします。
以下、血液を用いた検査について記載します。
1)肝細胞の障害 (破壊) を反映する検査
2)肝臓の合成能を反映する検査
3)胆道系の障害を反映する検査
4)肝臓の線維化を反映する検査
5)腫瘍マーカー
などに分類できます。

1)肝細胞の障害(破壊)を反映する検査

(a) AST(GOT)とALT(GPT)
基準値:30 IU/L 以下
血清トランスアミラーゼといわれます。
これらの蛋白質(酵素)は肝細胞内に存在するので、それらが細胞内から外(血清中)へ放出される(逸脱する)ことは肝細胞が破壊されたことを意味します。
ALTは肝臓に比較的特異的に存在しますが、ASTは赤血球や筋肉にも存在するので溶血や心筋障害でも上昇することがあります。
慢性肝炎ではALT>AST、肝硬変ではAST>ALTのパターンをとる場合が多いことが分かっています。
(b) ビリルビン
総ビリルビンの基準値:0.2 〜 1.2 mg/dL
肝臓におけるビリルビンの排泄機構は、@間接型ビリルビンの肝細胞内抱合機構への摂取、A間接型から直接型への変換、B抱合型ビリルビンの細胆管への移行、に分けられます。
黄疸は、@肝前性黄疸(溶血性黄疸)、A肝性黄疸(肝細胞性黄疸、肝内胆汁うっ滞)とB肝後性黄疸 (閉塞性黄疸) に分けられます。
直接型ビリルビン/総ビリルビン比を計算して、30%未満なら溶血性黄疸を、60%を超えるなら閉塞性黄疸を、30〜60%なら肝細胞性黄疸を一応考えます。

2)肝臓の合成能を反映する検査

(a) アルブミンとコリンエステラーゼ(ChE)
アルブミンの基準値:3.8〜5.3 g/dL
コリンエステラーゼの基準値:男性 234〜493 IU/L、女性 200〜452 IU/L
両者は肝臓で合成される蛋白質なので、肝臓がものを作る力を示します。
これらが低下することは肝臓がものを作る力が弱っていることを意味します。
肝障害とは別に、悪液質や重症消耗性疾患でも低下します。
ChEはネフローゼ症候群や高脂血症で上昇しますので注意が必要です。
(b) コレステロール
総コレステロールの基準値:140〜199 mg/dL
血清コレステロール値は、@食物中のコレステロールの吸収、A体内での生合成、Bコレステロールの異化・排泄で調節されています。
肝臓では全身のコレステロール生合成の70%がおこなわれています。
肝硬変や重症肝炎では、肝臓でのVLDLやHDLの産生低下と相まって血清コレステロールは低値を示します。
(c) プロトロンビン時間
プロトロンビン活性の基準値:70〜140%
プロトロンビン時間は肝臓で合成される凝固因子であるVII, X, V, II, I因子で規定されるので、肝臓の合成力を表しています。
これらの凝固因子の血中半減期は数時間〜3日であり、半減期が長いアルブミンやChEの値に比較して、より現時点での肝細胞の蛋白合成能を表す指標となります。

3)胆道系の障害を反映する検査

(a) アルカリフォスファターゼ(ALP)
ALPの基準値:100〜325 IU/L
ALPは肝臓の毛細胆管に多く存在するタンパク質です。
ALP1とALP2の大部分は肝臓由来です。
肝臓由来ALPの多くは胆汁中に分泌され、腸管に排泄されます。
肝外胆道閉鎖や肝内胆汁うっ滞があると肝臓由来ALPの胆汁中への分泌が障害され、血液中で上昇します。
明らかな胆道閉鎖機転がなくとも肝実質内に大きな腫瘍があるとALPは上昇します。
(b) γ-GTP
γ-GTPの基準値:50 IU/L 以下
γ-GTPは肝細胞や毛細胆管に多く存在するタンパク質です。
閉塞性黄疸時には毛細胆管上皮細胞におけるγ-GTP誘導がおこります。
アルコール摂取や脂肪肝でもγ-GTPが誘導されます。

4)肝臓の線維化を反映する検査

(a) ヒアルロン酸、プロコラーゲンIIIペプチド(P-V-P)、IV型コラーゲン7S
ヒアルロン酸の基準値:0〜50 ng/mL
P-III-Pの基準値:0.3〜0.8 U/mL
IV型コラーゲン7Sの基準値:140 ng/mL 以下
これらは肝臓の星細胞(線維芽細胞)で産生される細胞外マトリックス成分です。
慢性肝障害が持続するとこれらの成分の産生が増加すると同時に、肝臓内の内皮細胞での取り組み・分解が低下して血清中濃度が上昇します。
ヒアルロン酸は慢性関節リウマチや中皮腫でも上昇します。
(b) 血小板数

血小板数の基準値:14万〜34万/μL
血小板は血球成分の一つであり、血を止めるために必要です。
肝臓の線維化の進展に比例して脾腫(脾臓の腫大)がおこり、血小板が脾臓にプールされるため減少します。また、肝臓からは血小板を増やすホルモン様の物質が出ますが、慢性肝障害では低下します。
血小板数で肝臓の線維化レベルを推測する場合、18万でF1、15万でF2、13万でF3、10万以下でF4に相当することになります。

5)腫瘍マーカー

(a) AFP
AFPの基準値:20 ng/mL 以下
AFPは胎児期に肝臓および卵黄嚢で産生されるタンパク質です。生後に産生されるAFPも原則的には肝細胞由来と胚細胞由来です。
肝がんでは血清中のAFPが上昇することがあり、慢性の肝障害があってAFPが200〜400 ng/mLなら肝がんの可能性が高く、400〜1000 ng/mL以上であれば非常に疑わしくなります。
半減期5日と言われています。
近年、小肝癌の診断率が向上するに伴い、その有効性は低下しています。
慢性肝炎や肝硬変でも軽度上昇することがあります。対照として慢性肝炎や肝硬変を置いたとき、カットオフ値を20 ng/mLとしたときの感度は60%、特異度は70%程度と言われています。
レンズマメレクチン親和性を持つAFP分画 (AFPL3分画) は高い特異性を持つことが分かっています (AFP-L3分画15%以上) 。
(b) PIVKA-II
PIVKA-IIの基準値:40 mAu/mL 以下
PIVKA-II (Protein induced by vitamin K absence or antagonists II) は肝臓で合成される異常プロトロンビンで、des-γ-carboxy prothrombin (DCP) とも呼ばれています。
半減期40〜60時間と言われています。
カットオフ値を40 mAU/mLとした場合、感度は60%で特異度は95%です。
Vitamin K拮抗剤であるワーファリン内服中の患者ではPIVKA-II異常高値を示す場合があります。
閉塞性黄疸時や抗生物質投与時にもPIVKA-IIの上昇が起こりえます。
一方、Vitamin K製剤投与中は肝癌患者においてもPIVKA-IIは正常化します。
(c) CA 19-9
CA 19-9の基準値:37 U/mL 以下
膵がんや胆道がんで上昇する腫瘍マーカーです。
肝内胆管がんでも上昇する場合があるので、肝臓に腫瘍がある場合測定されることがあります。

6)肝炎ウイルスに関する検査

ここではB型肝炎とC型肝炎に関する検査の種類とその意味を示します。
(a) B型肝炎ウイルスマーカー
検査項目 臨床的意義
HBs抗原 陽性であればB型肝炎ウイルス(HBV)に感染している。
HBs抗体 陽性であれば過去に感染し、その後治癒したことを示す。
HBVワクチンを接種した場合にも陽性となる。
HBe抗原 陽性であれば一般にHBVの増殖力が強いことを示す。
HBe抗体 陽性であれば一般にHBVの増殖力が低下していることを示す。
HBc抗体 陽性であればHBVに感染したことを示す。(HBVワクチン接種の場合は陰性となる。)
HBc-IgM抗体 最近HBVに感染したことを示す。
HBV-DNA HBVのウイルス量を示す。
HBコア関連抗原 HBV感染の診断の補助及び治療効果判定の指標。
DNAポリメラーゼ HBV増殖に関連し、間接的にウイルス量を反映。
(b) C型肝炎ウイルスマーカー
検査項目 臨床的意義
HCV抗体 陽性であればC型肝炎ウイルス(HCV)に感染しているか、過去に感染したことがあることを示す。HCV抗体陽性で、HCV-RNA陰性であれば、過去の感染である。
HCVコア抗原 陽性であればHCVに感染していることを示す。
HCV-RNA 陽性であればHCVに感染しており、ウィルス量を示す。