ステージ
ホーム > 広報事業 > 肝臓の病気のお話 > B型肝炎とその治療について

B型肝炎とその治療について

[1] B型肝炎ウイルスとは?

B型肝炎ウイルス (HBV) はDNAウイルスで、1964年にBlumbergらによってオーストラリア抗原として発見されました。
1970年にHBVの本体であるDane粒子が同定され、また、1979年にはウイルスゲノムがクローニングされました。
HBVは直径42 nmの球状ウイルスで、3.2 kbの環状の二本鎖DNAとそれを包むエンベロープから構成されます。
HBV-DNAにはHBs抗原、HBc抗原、X蛋白質、DNAポリメラーゼがコードされています。

[2] B型肝炎の疫学と感染経路

我が国では100〜130万人がHBVに持続感染していると推定されています。
世界全体では20億人の感染者、3.5億人の持続感染者が存在すると言われ、年間50〜70万人がHBV関連で死亡すると言われています。
特に、アジアやアフリカに感染者が多いのが特徴です。
HBVは血液や体液を介して感染します。
HBV持続感染者の大部分はHBV陽性の母親からの感染、つまり母子感染です。また、乳幼児期の医療行為による感染や家族内感染もあります。
思春期以降の感染の多くは、HBV慢性感染者との性交渉です。
また、HBVに感染された血液で汚染された針を使って注射等を行なうと感染する可能性があり、医療行為、薬物中毒、針治療や刺青でも感染する場合があります。
ピアスで耳などに穴をあけるときは、器具を個人使用にしないと感染する恐れがあります。
カミソリや歯ブラシも感染源になる可能性がありますので、個人使用にすることが望まれます。

[3] 臨床症状

B型急性肝炎になると3〜6ヶ月の潜伏期の後、全身倦怠感、食欲不振、悪心・嘔吐などが見られ、肝障害が強いと黄疸が出る場合もあります。
B型急性肝炎は時に重症化し、劇症肝炎になって死亡する場合もあります。
B型慢性肝炎では全身倦怠感がある場合もありますが、ほとんどが無自覚、無症状であり、血液検査を行なって初めてB型慢性肝炎とわかることが多々あります。肝臓が「沈黙の臓器」と言われる所以です。
しかし、「急性増悪」と呼ばれる一過性の強い肝障害を起こすことがあり、この場合は急性肝炎の時と同じ症状が出ます。
B型肝硬変になると、C型肝硬変と同じ症状が出てきます。即ち、倦怠感が強くなり、下記の症候がでてきます。
■手掌紅斑
 手のひらの一部のみが赤くなり血管が拡張する
■クモ状血管腫
 胸の鎖骨あたりや肩の皮膚の毛細血管が拡張する
■女性化乳房
 男性なのに乳房がはってくる
■むくみ
 足がむくみやすい
肝硬変がさらに強くなると、下の症候がでてきます。
■お腹がはる
 腹水が多くなるとカエルのようなお腹になる
■黄疸
 皮膚や目が黄色くなり、皮膚がかゆくなる
■アンモニア臭
 吐く息がアンモニアの匂いがする
■出血しやすい
 歯ぐきからの出血や皮下出血がしやすくなる
意識混濁
 肝臓性の脳症が出て、見当識障害になる、など

[4] B型慢性肝炎の検査

血液検査

1)B型肝炎ウイルスについて

検査項目 臨床的意義
HBs抗原 陽性であればB型肝炎ウイルス(HBV)に感染している。
HBs抗体 陽性であれば過去に感染し、その後治癒したことを示す。
HBVワクチンを接種した場合にも陽性となる。
HBe抗原 陽性であれば一般にHBVの増殖力が強いことを示す。
HBe抗体 陽性であれば一般にHBVの増殖力が低下していることを示す。
HBc抗体 陽性であればHBVに感染したことを示す。
(HBVワクチン接種の場合は陰性となる。)
HBc-IgM抗体 最近HBVに感染したことを示す。
HBV-DNA HBVのウイルス量を示す。
HBコア関連抗原 HBV感染の診断の補助及び治療効果判定の指標。
DNAポリメラーゼ HBV増殖に関連し、間接的にウイルス量を反映。
  • HBVの感染については血液検査で調べます。
  • HBs抗原、HBe抗原が陽性であれば現在HBVに感染しています。次にHBV-DNA量を定量することが必要です。
  • HBV-DNAにはウイルス型があります。日本ではほとんどがジェノタイプBかCです。しかしながら最近のB型急性肝炎ではジェノタイプAの場合が増えています。
  • HBs抗体が陽性なら、免疫応答ができており、過去の感染ということになります。ただし、HBVがcccDNAの形で肝細胞の中に潜んでいる可能性がありますので、HBVが完全に体から居なくなったとは言い切れないと考えられています。
  • HBVワクチンを打てば、HBs抗体は陽性で、HBc抗体は陰性です。
  • HBe抗体が陽性であれば一般にHBVの増殖力が低下していることを示します。
  • さらにHBVウイルスに関してはコア関連抗原の量を調べたり、薬剤耐性変異を調べたりすることがあります。治療法を選ぶときに必要な情報です。

2)肝機能検査について

  • ASTとALT : 肝細胞が壊れているかどうかを調べる最も基本的な検査です。正常では両方とも30 IU/L未満です。
  • γ-GTP:γ-GTPが上昇していると、飲酒量が多い、薬の肝臓への影響が出ている、脂肪肝になっている、などが推測されます。
  • ALP:胆道系酵素の一つで、胆管に障害があると上昇します。腫瘍がある時にも異常値を示すことがあります。
  • アルブミン:アルブミンは肝細胞で産生される主要なタンパク質です。基準値は3.8〜5.3 g/dLです。アルブミンが低下していると肝細胞の合成能が低下していることを意味します。
  • プロトロンビン活性:70〜140%が基準値です。凝固因子の半減期は数時間しかありません。低値を示す場合は、その時点での肝臓の蛋白合成が低下していることを意味します。
  • 血小板数:血小板数は肝臓の線維化の進行とともに低下することが判っています。肝臓の線維化は病理学的にF0 (線維化なし) 、F1 (軽度の線維化) 、F2 (中等度線維化) 、F3 (高度線維化) 、F4 (肝硬変) と分けられます。B型慢性肝炎においては血小板数が22万以上であればF0、18万程度であればF1、15万程度であればF2、13万程度であればF3、10万を下回るとF4と大凡推測されます。10万未満は肝硬変の可能性ありと覚えてください。
  • また、線維化が高度になると、白血球数や赤血球数も低下します。これを汎血球減少と言います。線維化が高度になっていることを示します。

3)腫瘍マーカーについて

  • 肝がんの腫瘍マーカーとしてはAFPとPIVKA-IIがよく用いられます。保険診療で月1回の測定が可能です。
  • 腫瘍マーカーは“目安”にはなりますが、腫瘍マーカーが正常値であってもがんができていることは頻繁にあります。従って、画像検査を定期的に受けることが大切です。一方、AFPが異常であるからといって必ずしも肝がんであるわけではありませんが、異常であれば超音波やCT、MRIのような画像検査を受ける必要があります。
  • 慢性の肝障害があってAFPが200〜400 ng/mLなら肝がんの可能性が高く、400〜1000 ng/mL以上であれば非常に疑わしくなります。
  • PIVKA-IIはdes-γ-carboxy prothrombin (DCP) とも呼ばれます。基準値は40 mAU/mL以下です。
画像検査
B型慢性肝炎が進行すると肝硬変になり、肝硬変になると年率8%で肝臓がんが見つかると言われています。前述しましたが、血液検査だけでは肝がんの早期発見にはつながりません。定期的に (少なくとも年2回) 、画像検査を受けることが必要です。

1)超音波検査

  • 肝臓の画像検査としては超音波検査が一般的です。
  • X線を使いませんので被爆することはありません。
  • 超音波検査では、肝臓の変形や表面の凹凸、脂肪沈着などがわかります。また、肝臓の周辺臓器である、胆のう、膵臓、脾臓、腹部動脈、リンパ節、骨盤腔内臓器、腹水などが同時に観察されます。
  • 肝臓の腫瘍が検出できます。肝がんは勿論ですが、肝血管腫、肝のう包、肝膿瘍なども判ります。
  • 最近は、ソナゾイドという造影剤を用いた造影検査ができ、より肝がんの検出率が上がっています。
  • 肝臓の検査で肝生検を行なうときは超音波画像を見ながら行ないます。また、肝がんの治療でラジオ波焼灼療法 (FFA) 、エタノール注入療法 (PEIT) を行なう際も超音波画像を見ながら行ないます。従って、腫瘍等が超音波で見えるかどうかは重要なのです。
  • 超音波検査は使用する機器や技師さんの技量で検出率が異なります。
  • また、横隔膜の近くは観察がしにくいという欠点があります。

2)CT検査

  • CT検査はX線を使いますが、短時間で肝臓全体、さらには腹部全体の様子を観察できます。
  • 但し、腹部単純CTでは肝臓の腫瘍を検出できない場合があります。
  • 肝がんの診断や、治療後の経過観察、また、血管腫などとの鑑別のためには造影CT (ダイナミックCT) 検査を行ないます。
  • 但し、腎機能が悪い場合や、造影剤にアレルギー反応がある場合は造影検査ができませんので、主治医とよくご相談ください。

3)MRI検査

  • MRI検査とは核磁気共鳴画像法の意味です。CT検査よりは時間がかかりますが、肝臓全体、さらには腹部全体の様子を観察できます。
  • CT検査とMRI検査を目的によって使い分けたり、交互に使ったりして精度をあげるようにしている施設が多いと思われます。
  • 肝がんの診断や、治療後の経過観察、また、血管腫などとの鑑別のためには造影MRI (ダイナミックMRI) 検査を行ないます。

  • 特に肝がんの診断には肝細胞に取り込まれるEOBという造影剤を用います。
  • 但し、腎機能が悪い場合や、造影剤にアレルギー反応がある場合は造影検査ができませんので、主治医とよくご相談ください。
  • また、体の内部に手術等で金属片が留置されている場合は、MRI検査自体ができませんので注意が必要です。

[5] B型慢性肝炎の治療

HBV-DNAが陽性で慢性肝炎があれば積極的に治療することが勧められています。慢性肝炎とはAST/ALT値が6ヶ月以上にわたり異常値、即ち、30 IU/L以上である場合を言います。しかしながら、AST/ALTが正常であっても肝生検を行なうと線維化が進んでいる場合も多々あるため、AST/ALT値のみで判断することはできません。日常診療で得られる検査データ、例えば血小板数、アルブミン値や超音波検査画像などから総合的に判断して治療は決定されます。

以下は、2017年1月時点の代表的な治療例のみを記載します。実際には年齢、病気の進行度、これまでの治療歴やウイルスの薬剤耐性変異などを考慮して総合的に決定されますので、ご注意ください。

1)35歳未満B型慢性肝炎の治療

35歳未満の場合、免疫力の賦活によりセロコンバージョン(HBe抗原陽性からHBe抗体陽性にスイッチする)が誘導されることが期待されます。従って、免疫賦活作用のあるインターフェロンを用いた治療が考慮されます。インターフェロンを使わない場合は、核酸アナログ製剤であるエンテカビルまたはテノホビルを用いることが一般的です。
尚、2017年2月より、ベムリディも用いることができるようになりました。
(a)インターフェロン(IFN)を使う場合
ペグインターフェロン 週1回、48週間投与
(b)インターフェロン(IFN)を使わない場合
エンテカビル、テノホビル、またはベムリディ

1日1回

(c)肝硬変の場合
エンテカビル、テノホビル、またはベムリディ 1日1回

2)35歳以上B型慢性肝炎や肝硬変の治療

35歳以上の場合、免疫力の賦活によりセロコンバージョン (HBe抗原陽性からHBe抗体陽性にスイッチする) が誘導されることが困難となります (症例により異なります) 。従って、エンテカビル、テノホビル、またはベムリディを用いることが一般的です。
◇エンテカビル、テノホビル、またはベムリディ 1日1回

3)IFNや核酸アナログ製剤が使えない場合

種々の理由でIFNや核酸アナログ製剤を用いた治療ができない方は、肝庇護剤を用いてできる限りAST/ALT値を正常に近づけるようにします。
肝庇護剤
◇ウルソデオキシコール酸
◇グリチルリチン製剤

4)治療後の経過

  • 何れの治療も専門医に定期的にチェックを受けて、治療効果を勘案しながら、継続するか、中止するかが決められます。
  • HBV-DNAが検出限界以下になってもHBV-DNAが肝臓から消失したとは言えません。従って、定期的に血液検査と画像検査を受けることが必要です。
  • これからも新しい治療法が開発される予定ですので、常に新しい情報に注意すべきです。

[6] HBV感染の予防

  • HBVウイルスに感染することを予防することが大切です。2016年10月より、2016年4月以降に出生する者に対してB型肝炎ワクチンが接種されることとなりました。
  • 我が国では母親がHBV陽性の場合は母子感染予防事業に則り、HBIGとHBワクチン投与で子への感染が防止できます。
  • 父親がHBV陽性の場合、食べ物を口移しで子に与えることでも感染する可能性があるので、注意が必要です (父子感染) 。
  • 大人になってからの水平感染を予防するためには、HBV陽性者と、歯ブラシやカミソリを共有しないことなどが大切になります。
  • また、安易にピアスやファッションタトゥー (刺青) を入れず、必ず、個人使用の器具を用いることが大切です。
  • HBVは性交渉で感染することを理解しておくことが重要です。