C型肝炎とその治療について
[1] C型肝炎ウイルスとは?
C型肝炎ウイルス (HCV) はRNAウイルスで非A非B肝炎の病原菌として1989年に米国のカイロン社のグループによって分離されました。
HCVは直径50〜60 nmの球状ウイルスで外被 (エンベロープ) とコア蛋白の二重構造を有します。
HCV-RNAからはウイルス粒子を形成する構造蛋白 (core, E1, E2, p7) とウイルス粒子に含まれない非構造蛋白 (NS2, NS3, NS4A, NS4B, NS5A, NS5B) が産生されます。
[2] C型肝炎の疫学※1と感染経路
我が国の一般献血者におけるHCV抗体陽性率は1〜2%です。そのためHCV感染者は約150万人ではないかと考えられています。
世界全体では1.7億人の感染者が存在すると言われています。特に、モンゴル、エジプト、ボリビアでは国民の1割以上が感染者と言われています。
我が国の感染者は高齢者ほど高く60〜69歳では3.38%であり、若年者ほど低くなっています。
HCVは血液感染が主で、HCVが発見される前に輸血や血液製剤を受けた方が感染している可能性があります。
また、HCVに感染された血液で汚染された針を使って注射等を行なうと感染する可能性があり、医療行為、薬物中毒、針治療や刺青でも感染する場合があります。
ピアスで耳などに穴をあけるときは、器具を個人使用にしないと感染する恐れがあります。
性交渉では感染しにくいと言われていますが、全く危険性がないとは言えません。また、母子感染の危険性もB型肝炎ほど高くないと言われています。
※1 疫学とは:個人ではなく、集団を対象とし、疾病の発生原因や予防などを研究する学問。元々は伝染病を研究対象として始まったが、その後、公害病や事故などの人災、地震などの天災、交通事故、がん、生活習慣病など、研究対象・調査対象は多様化している。 (ウィキペディアより引用)
[3] 臨床症状
C型急性肝炎になると全身倦怠感、食欲不振、悪心・嘔吐などが見られ、肝障害が強いと黄疸が出る場合もあります。
C型慢性肝炎では全身倦怠感がある場合もありますが、ほとんどが無自覚、無症状であり、血液検査を行なって初めてC型慢性肝炎とわかることが多々あります。肝臓が「沈黙の臓器」と言われる所以です。
肝硬変になると、倦怠感が強くなり、下記のような種々の症候がでてきます。
■手掌紅斑
手のひらの一部のみが赤くなり血管が拡張する
■クモ状血管腫
胸の鎖骨あたりや肩の皮膚の毛細血管が拡張する
■女性化乳房
男性なのに乳房がはってくる
■むくみ
足がむくみやすい
肝硬変がさらに強くなると、下の症候がでてきます。
■お腹がはる
腹水が多くなるとカエルのようなお腹になる
■黄疸
皮膚や目が黄色くなり、皮膚がかゆくなる
■アンモニア臭
吐く息がアンモニアの匂いがする
■出血しやすい
歯ぐきからの出血や皮下出血がしやすくなる
■意識混濁
肝臓性の脳症が出て、見当識障害になる、など
[4] C型慢性肝炎の検査
血液検査
1)C型肝炎ウイルスについて
C型肝炎ウイルスマーカー
検査項目 |
臨床的意義 |
HCV抗体 |
陽性であればC型肝炎ウイルス(HCV)に感染しているか、過去に感染したことがあることを示す。HCV抗体陽性で、HCV-RNA陰性であれば、過去の感染である。
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HCVコア抗原 |
陽性であればHCVに感染していることを示す。
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HCV-RNA |
陽性であればHCVに感染しており、ウィルス量を示す。
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- HCVの感染については血液検査で調べます。
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HCV抗体が陽性なら現在HCVに感染しているか、もしくは過去に感染したことがあるかを示します。HCV抗体が陽性であるからといって、現在もHCVに感染しているとは限らないことに注意してください。
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HCV抗体が陽性なら、次にHCV-RNA量を調べます。今はTaq Man PCR法で調べるのが一般的です。HCV-RNAが陽性なら現在HCVに感染しています。HCV-RNAが陰性ならHCVには感染していません。即ち、HCV抗体が陽性でもHCV-RNAが陰性であれば、過去の感染ということになります。
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HCV-RNAが陽性なら、HCVセロタイプを調べます。セロタイプには1と2があります。日本では1が約70%、2が約30%と言われています。セロタイプ1と2では治療法が異なりますので治療する時は調べる必要があります。
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さらにセロタイプ1はジェノタイプ1aと1bに分かれます。日本ではジェノタイプ1bが殆どです。セロタイプ2はジェノタイプ2aと2bに分かれます。
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HCVウイルスに関してはさらにコア蛋白の量を調べたり、薬剤耐性変異を調べたりすることがあります。新しい治療法を選ぶときに必要な情報です。
2)肝機能検査について
3)腫瘍マーカーについて
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肝がんの腫瘍マーカーとしてはAFPとPIVKA-IIがよく用いられます。保険診療で月1回の測定が可能です。
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腫瘍マーカーは“目安”にはなりますが、腫瘍マーカーが正常値であってもがんができていることは頻繁にあります。従って、画像検査を定期的に受けることが大切です。一方、AFPが異常であるからといって必ずしも肝がんであるわけではありませんが、異常であれば超音波やCT、MRIのような画像検査を受ける必要があります。
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慢性の肝障害があってAFPが200〜400 ng/mLなら肝がんの可能性が高く、400〜1000 ng/mL以上であれば非常に疑わしくなります。
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PIVKA-IIはdes-γ-carboxy prothrombin (DCP)とも呼ばれます。基準値は40 mAU/mL以下です。
画像検査
C型慢性肝炎が進行すると肝硬変になり、肝硬変になると年率8%で肝臓がんが見つかると言われています。前述しましたが、血液検査だけでは肝がんの早期発見にはつながりません。定期的に (少なくとも年2回) 、画像検査を受けることが必要です。
1)超音波検査
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肝臓の画像検査としては超音波検査が一般的です。
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X線を使いませんので被爆することはありません。
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超音波検査では、肝臓の変形や表面の凹凸、脂肪沈着などがわかります。また、肝臓の周辺臓器である、胆のう、膵臓、脾臓、腹部動脈、リンパ節、骨盤腔内臓器、腹水などが同時に観察されます。
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肝臓の腫瘍が検出できます。肝がんは勿論ですが、肝血管腫、肝のう包、肝膿瘍なども判ります。
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最近は、ソナゾイドという造影剤を用いた造影検査ができ、より肝がんの検出率が上がっています。
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肝臓の検査で肝生検を行なうときは超音波画像を見ながら行ないます。また、肝がんの治療でラジオ波焼灼療法 (RFA) 、エタノール注入療法 (PEIT) を行なう際も超音波画像を見ながら行ないます。従って、腫瘍等が超音波で見えるかどうかは重要なのです。
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超音波検査は使用する機器や技師さんの技量で検出率が異なります。
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また、横隔膜の近くは観察がしにくいという欠点があります。
2)CT検査
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CT検査はX線を使いますが、短時間で肝臓全体、さらには腹部全体の様子を観察できます。
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但し、腹部単純CTでは肝臓の腫瘍を検出できない場合があります。
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肝がんの診断や、治療後の経過観察、また、血管腫などとの鑑別のためには造影CT (ダイナミックCT) 検査を行ないます。
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但し、腎機能が悪い場合や、造影剤にアレルギー反応がある場合は造影検査ができませんので、主治医とよくご相談ください。
3)MRI検査
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MRI検査とは核磁気共鳴画像法の意味です。CT検査よりは時間がかかりますが、肝臓全体、さらには腹部全体の様子を観察できます。
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CT検査とMRI検査を目的によって使い分けたり、交互に使ったりして精度をあげるようにしている施設が多いと思われます。
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肝がんの診断や、治療後の経過観察、また、血管腫などとの鑑別のためには造影MRI (ダイナミックMRI) 検査を行ないます。
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特に肝がんの診断には肝細胞に取り込まれるEOBという造影剤を用います。
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但し、腎機能が悪い場合や、造影剤にアレルギー反応がある場合は造影検査ができませんので、主治医とよくご相談ください。
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また、体の内部に手術等で金属片が留置されている場合は、MRI検査自体ができませんので注意が必要です。
[5] C型慢性肝炎の治療
HCV-RNAが陽性で慢性肝炎があれば積極的に治療することが勧められています。慢性肝炎とはAST/ALT値が6ヶ月以上にわたり異常値、即ち、30 IU/L以上である場合を言います。しかしながら、AST/ALTが正常であっても肝生検を行なうと線維化が進んでいる場合も多々あるため、AST/ALT値のみで判断することはできません。日常診療で得られる検査データ、例えば血小板数、アルブミン値や超音波検査画像などから総合的に判断して治療は決定されます。
HCVに直接作用するNS3/4AプロテアーゼやNS5A、NS5B阻害剤のことをDAAsと言います。
2014年まではインターフェロンを用いた治療が主流でしたが、2017年現在、インターフェロンを用いないDAAsの組み合わせによる治療が専ら行なわれています。
下記に、2017年1月時点の代表的な治療例のみを記載します。実際には年齢、病気の進行度、これまでの治療歴やウイルスの薬剤耐性変異などを考慮して総合的に判断されますので、ご注意ください。治療の選択においては肝臓病専門医と十分な相談の上で決定してください。
尚、2017年内にさらに新しい治療法が保険で使えるようになる可能性があります。
1)セロタイプ1型C型慢性肝疾患の治療
(a)慢性肝炎―初回治療、再治療(前治療でDAAsを用いていない場合) |
◇ソホスブビル/レジパスビル併用療法 |
◇オムビタスビル/パリタプレビル/リトナビル併用療法 |
◇エルバスビル/グラゾプレビル併用療法 |
(b) 慢性肝炎―再治療(前治療でプロテアーゼ阻害剤を用いた場合) |
◇ソホスブビル/レジパスビル併用療法 |
(c) 代償性肝硬変―初回治療、再治療 |
◇ソホスブビル/レジパスビル併用療法 |
◇オムビタスビル/パリタプレビル/リトナビル併用療法 |
◇エルバスビル/グラゾプレビル併用療法 |
2)セロタイプ2型C型慢性肝疾患の治療
◇ソホスブビル/リバビリン併用療法 |
◇オムビタスビル/パリタプレビル/リトナビル/リバビリン併用療法 |
3)IFNやDAAs治療ができない場合
種々の理由でIFNやDAAsを用いた治療ができない方は、肝庇護剤を用いてできる限りAST/ALT値を正常に近づけるようにします。
肝庇護剤 |
◇ウルソデオキシコール酸 |
◇グリチルリチン製剤 |
4)治療後の経過
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治療を行なってから6ヶ月間HCV-RNAが血液中から消失した場合、sustained viral response (SVR) といいC型慢性肝炎が治癒したことを意味します。最近では治療終了後のHCV-RNA消失期間を3ヶ月でSVRとしています。
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治療法の進歩で95%前後の患者さんはSVRになると予想されます。
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また、SVRになっても肝臓が正常に戻ったとは言えません。従って、6ヶ月に1度程度、定期的に血液検査と画像検査をうけることが必要です。
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これからも新しい治療法が開発される予定ですので、常に新しい情報に注意すべきです。