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肝がんとその治療について

[1] 肝がんとは?

肝がんには、肝臓そのものから発症した原発性肝がんと、他の臓器のがんが肝臓に転移した続発性肝がん(転移性肝がん)があります。
原発性肝がんの約90%を肝細胞癌が占め、約10%が胆管細胞癌です。
ここでは肝細胞癌について説明します。

[2] 肝がんの疫学

肝細胞癌 (HCC) は、約8割がB型肝炎ウイルス(HBV)やC型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染による慢性肝炎や肝硬変を背景として発生します。
HCVによる慢性肝疾患が占める割合は年々減少傾向ですが、第19回全国原発性肝癌追跡調査報告(2006〜2007)でもHCCの64.9%がHCV抗体陽性、15.1%がHBs抗原陽性であり、HCCの大部分は肝炎ウイルスが関与していると考えられます。
特にC型肝硬変患者では年率8%でHCCが発生するといわれています。

[3] 臨床症状

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、初期には自覚症状がほとんどありません。
自分が肝炎にかかっていることを知らず、検診や他の病気の検査のときにたまたま肝がんが発見されることも少なくありません。
肝がん特有の症状は少ないのですが、進行した場合に、腹部のしこりや圧迫感、痛み、おなかが張った感じなどを訴える人もいます。

[4] 検査

肝炎ウイルス感染を早期に知り、適切に対応することが重要です。HBV、HCVに感染している人は、自覚症状が出現してからではなく、日ごろから定期的に検査を受けることが必要で、3〜6ヶ月に一回、血液検査や超音波検査などを行います。感染に加えて、肝機能に異常があるときや腫瘍マーカーが上昇している場合には、必要に応じて、血液検査を頻繁に行ったり、CT、MRI検査などを行います。
血液検査

1)肝炎ウイルス検査について

2)肝機能検査について

3)腫瘍マーカーについて

  • HCC の腫瘍マーカーとしては、AFPとPIVKA-IIがよく用いられます。保険診療で月1回の測定が可能です。
  • 腫瘍マーカーは“目安”にはなりますが、腫瘍マーカーが正常値であってもがんができていることは頻繁にあります。従って、画像検査を定期的に受けることが大切です。一方、AFPが異常であるからといって必ずしも肝がんがあるわけではありませんが、異常であれば超音波やCT、MRIのような画像検査を受ける必要があります。
  • 慢性肝障害があってAFPが200〜400 ng/mLなら肝がんの可能性が高く、400〜1000 ng /mL以上であれば非常に疑わしくなります。
  • PIVKA-IIはdes-γ-carboxy prothrombin(DCP)とも呼ばれます。基準値は40 mAU/mL以下です。
画像検査

血液検査だけでは肝がんの早期発見にはつながりません。定期的に (少なくとも年2回) 、画像検査を受けることが必要です。

1)超音波検査

  • 肝臓の画像検査としては、超音波検査が一般的です。
  • X線を使いませんので被爆することはありません。
  • 超音波検査では、慢性肝炎や肝硬変、脂肪沈着の有無などがわかります。また、肝臓の周辺臓器も同時に観察されます。
  • 肝臓の腫瘍の検出ができます。
  • 超音波検査は使用する機器や技師さんの技量で検出率が異なります。
  • また、横隔膜の近くは観察できにくいという欠点があります。
  • ソナゾイドという造影剤を用いた造影検査では、より肝がんの検出率が上がっています。
  • ソナゾイドは、造影剤アレルギーや喘息、腎障害のあるために造影CTやMRIが行えない方に対しても安全に使用できます。
  • 肝腫瘍に対して肝生検を行うときは超音波画像を見ながら行います。また、肝がんの治療でラジオ波焼灼療法(RFA)、エタノール注入療法(PEIT)を行う際にも超音波画像を見ながら行います。従って、腫瘍等が超音波で見えるかどうかは重要なのです。

2)CT検査

  • CT検査はX線を使いますが、短時間で肝臓全体、さらには腹部全体の様子を観察できます。
  • 但し、腹部単純CTでは肝臓の腫瘍を検出できない場合があります。
  • 肝がんの診断や、治療後の経過観察、また、血管腫などとの鑑別のためには、造影CT(ダイナミックCT)を行います。
  • 但し、腎機能が悪い場合や、造影剤にアレルギー反応がある場合は造影検査ができませんので、主治医とよくご相談ください。

3)MRI検査

  • MRI検査とは核磁気共鳴画像法の意味です。CT検査よりは時間がかかりますが、肝臓全体、さらには腹部全体の様子を観察できます。
  • CT検査とMRI検査を目的によって使い分けたり、交互に使ったりして精度をあげるようにしている施設が多いと思われます。
  • 肝がんの診断や、治療後の経過観察、また、肝腫瘍の鑑別診断のためには、造影MRI(ダイナミックMRI)検査を行います。
  • 特に肝がんの診断には、肝細胞に取り込まれるEOBという造影剤を用います。
  • 但し、腎機能が悪い場合や、造影剤にアレルギー反応がある場合は造影検査ができませんので、主治医とよくご相談ください。
  • また、体の内部に手術等で金属片が留置されている場合は、MRI検査自体ができませんので、注意が必要です。

4)腹部血管造影検査

  • 足の付け根の血管からカテーテルを入れて、肝動脈から造影剤を直接注入して肝がんの診断を行います。
  • 肝動脈塞栓術や肝動注化学療法などの治療を同時に行う場合があります。
  • 検査には入院が必要です。
  • 但し、腎機能が悪い場合や、造影剤にアレルギー反応がある場合は造影検査ができませんので、主治医とよくご相談ください。
病理検査
  • 画像検査のみで肝がんの確定診断に至らない場合、肝臓に針を刺して肝臓の組織を採取し、顕微鏡で観察する検査を行います。これを肝生検(バイオプシー)といいます。
  • 肝生検を行うためには入院が必要です。

[5] 肝がんの治療

肝がんの治療には、外科治療、穿刺 (せんし) 局所療法、肝動脈塞栓療法・肝動注化学療法、全身化学療法などがあります。肝がんの患者さんの多くは、がんと慢性肝疾患という2つの病気を抱えています。そのため、治療はがんの病期 (ステージ) だけではなく、肝機能の状態なども加味した上で選択する必要があります。治療法の選択については、主治医とよくご相談ください。
外科治療

1)肝切除

  • がんとその周囲の肝組織を手術によって取り除く治療です。
  • がんの位置や大きさ、数、広がり、さらに肝機能の条件などによって、肝切除をするかどうかが決められます。
  • 一般に、がんが肝臓にとどまっており、3個以下の場合、がんの位置や肝機能を考慮した上で、肝切除が選択されます。
  • 肝機能が十分でない場合、肝切除後に肝臓が機能しなくなる肝不全を起こす危険性が高いため、通常は手術以外の治療が選択されます。

2)肝移植

  • 肝臓をすべて摘出して、ドナー(臓器提供者)からの肝臓を移植する治療法です。
  • 肝切除が適応にならないほど肝機能が低下した肝硬変の場合に選択肢となります。
  • 肝がんにおける適応は、転移がない場合に限られます。
穿刺(せんし)局所治療
体の外から針を刺し、がんに対して局所的に治療を行うもので、経皮的局所療法とも呼びます。通常、皮膚の局所麻酔や、治療で生じる痛みに対して鎮痛剤投与や軽い静脈麻酔を行います。手術に比べて体への負担が少ないことが特徴ですが、がんの一部が残ってしまう危険性もあります。一般的には、がんの大きさが3cmより小さく、3個以下が対象とされます。超音波検査によりがんを観察しながら行います。最近では、より治療効果を上げるために、人工胸腹水や腹腔鏡を用いた治療もおこなわれています。

1)ラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法(RFA)

  • 体の外から特殊な針をがんに直接、あるいは、がんの近くに刺し、ラジオ波を発生させることでがんを焼灼して死滅させる治療法です。
  • 現在では、穿刺局所治療の主流となっています。

2)エタノール注入療法(PEIT)

  • 体の外から針をがんに直接刺し、無水エタノール (純エタノール) を注入してがんを死滅させる治療法です。

3)マイクロ波凝固療法(MCT)

  • 体の外から特殊な針をがんに直接刺し、マイクロ波を発生させることでがんを熱で凝固させて死滅させる治療法です。
肝動脈塞栓療法・肝動注化学療法
通常、血管造影検査に引き続いて行われる、カテーテルを用いた治療です。がんの個数に関係なく施行でき、他の治療と併用して行われることもあります。

1)肝動脈塞栓療法(TAE)

  • 肝動脈塞栓療法(TAE)は、がんに栄養を運んでいる血管を人工的にふさぎ、がんを”兵糧攻め”にする治療です。
  • カテーテルを用いて、塞栓物質を注入し、肝動脈を詰まらせます。
  • 近年では、抗がん剤と肝がんに取り込まれやすい造影剤を混ぜて投与し、その後に塞栓物質を注入する「肝動脈化学塞栓療法 (TACE) 」が主流となっています。

2)肝動注化学療法(TAI)

  • カテーテルから抗がん剤のみを注入します。
全身化学療法
  • 抗がん剤治療は、局所的な治療で効果が期待できない場合などに行われます。
  • 経口薬であるソラフェニブ(ネクサバール)は、HCCに対して初めて延命効果を示した分子標的薬であり、現在、標準治療に位置付けられています。
  • 現在も様々な新規薬剤の臨床試験が行われています。
その他
  • 骨に転移したときの疼痛緩和や、脳への転移に対する治療、血管に広がったがんに対する治療などを目的に放射線治療が行われることがあります。
  • 転移による痛みなどの症状が強い、肝機能が悪いために肝臓に負担をかける治療を行うことが難しい、などの場合には、がんそのものへの治療よりも、つらい症状の原因に応じて生活の質を維持することに重点を置いた治療が行われます。

[6] 治療後の経過観察

  • 肝がんは、肝炎ウイルスやアルコールなどで障害を受けた肝臓に発生するため、根治治療後であっても再発する危険性が高いことが知られています。
  • そのため、外来通院で3〜6ヶ月に1回以上は定期的に検査を受けてチェックしていくことが必要です。

[7] 発がん予防および肝がん根治治療後の再発予防

  • 肝発癌および肝癌再発予防には、背景となっている慢性肝疾患のコントロール、すなわち、原因の排除と炎症の沈静化が重要です。
  • 抗ウイルス療法により原因となっているHBVの増殖を抑え、HCVを排除することが発癌抑制につながります。
  • HBV関連肝癌に対しては、ラミブジン、アデフォビル、エンテカビル、テノホビル、またはベムリディなど、核酸アナログ投与による発癌および再発抑制効果が期待されます。
  • HCV関連肝癌に対しては、インターフェロン治療による発癌抑制効果が報告されてきました。
  • HCVに対する抗ウイルス治療は、従来のインターフェロン治療から、インターフェロンフリーの直接作動型抗ウイルス剤(DAAs)による治療へと、より抗ウイルス効果の高い治療へ標準治療が大きく変化しました。より高い発癌および再発抑制効果が期待されます。