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エラストグラフィ(elastography、硬度測定)は触診にて診断していた病変に関連する硬さの情報を、超音波やMRI等を駆使して測定する新たな画像診断法です。肝臓において、肝硬変の名前が示すとおり、肝疾患進行にて肝線維化が進み、肝臓は硬く変化するため、肝線維化診断に役立ちます。
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肝生検が肝線維化診断のゴールドスタンダードですが、入院を要する、出血や疼痛のリスク(侵襲的な検査)、サンプリングエラー、診断医による診断結果のばらつき等の欠点があります。
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2000年前半にフランスのエコセンス社がFibroScan(フィブロスキャン)を開発し、肝臓へのエラストグラフィの応用について注目されるようになりました。 (図2)
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近年普及が進んでいるShearWave Elastography(シアウェーブ エラストグラフィ)は、肝硬度をカラーマッピング表示できるよう開発され、通常の超音波画像を見ながら任意の部位の肝硬度測定が可能となり、フィブロスキャンでは測定できない腹水貯留例でも測定が可能です。各超音波機器メーカーのハイエンドモデルに搭載されています。
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エラストグラフィの原理
エラストグラフィはその測定基本原理の違いから下記の2つに大別されます。
@弾性波の速度から弾性率を測定する動的エラストグラフィ
モノに伝わる波の速さを測る方法(例:水たまりの波の伝わり方や豆腐を揺らした時の揺れを想像してください)
A組織の歪みを測定して硬さの代用とする静的エラストグラフィ
力を加えた時のひずみ具合を測る方法(例:硬いボールと柔らかいボールを押した時を想像してください)
実際には、モノに力を加えた時(加振)のその反応を測定しています。加振の方法としては、体内の心拍などの生理的振動を利用する方法、体外からバイブレータなどの加振装置で振動波を与える方法、超音波を焦点に集束させ体内で波を発生させる方法などがあります。また、その反応の観測方法として超音波とMRIの2種類が用いられています。
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フィブロスキャンの正式名称は、Vibration-Controlled Transient Elastography(バイブレーション-コントロールド トランシャント エラストグラフィ)です。登録商標のフィブロスキャンで保険承認されています。
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専用プローブによって発生させた単回の波が肝臓を伝わる速度を計測することによって、肝臓の硬さを測定します。(体表から肝臓に向けてプローブ先端の振動により発生した低周波の波を送ると、その振動は皮膚を通じて脂肪組織に入り肝臓に伝わります。この波の進行を超音波で追跡し、その速度を計算します。) 硬くなるほど速度は速まります。
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測定結果はkPa(キロパスカル)で表示されます。
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大阪市大のデータでは、C型肝炎患者において5 kPa以下が正常肝、17 kPa以上が肝硬変の診断となります。
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B型肝炎、アルコール性肝炎、非アルコール性脂肪肝炎や原発性胆汁性肝硬変などにおいても、基準になる値が若干の違いがあるものの有用であることが報告されています。
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フィブロスキャンは食事の影響を受けるため、原則として絶食にて施行します。妊婦とペースメーカー装着者は安全性のため施行できません。
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10回の有効な測定を行い、中央値と四分位範囲が画面表示されます。四分位範囲/測定中央値が0.3を越える場合は、測定値の信頼性が乏しくなり、検査不成功となります。
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最近、超音波の減衰を利用したControlled attenuation parameter(CAP)と呼ばれる新しい技術が付加されました。肝臓内の脂肪蓄積度を反映するとされており、脂肪肝の診断、診療に役立つことが期待されています。
(図2)フィブロスキャンについて(出典 インターメディカル社より)