非アルコール性脂肪肝炎とその治療について
[1] 非アルコール性脂肪肝炎とは?
明らかな飲酒歴
※1がないにも関わらず、アルコール性肝障害に類似した肝障害を非アルコール性脂肪性肝疾患 nonalcoholic fatty liver disease (NAFLD) と呼びます。
NAFLDの進行型で、肝組織上アルコール性肝炎に類似した炎症細胞浸潤・線維化を認める疾患を非アルコール性脂肪肝炎 nonalcoholic steatohepatitis (NASH) と呼びます。
NAFLDは病態が進行することの稀な非アルコール性脂肪肝 nonalcoholic fatty liver (NAFL) からNASH、肝硬変を含む幅広い疾患概念です。
※1 明らかな飲酒歴とは:純アルコールで男性30g/日以上、女性20g/日以上の飲酒量を指します。明らかな飲酒歴によりアルコール性肝障害を発症するため、NAFLDの飲酒量はそれ未満になります。
[2] 非アルコール性脂肪肝炎の疫学
日本の肥満人口 (BMI※2≧25) は男性1,300万人、女性1,000万人に上ります。
検診受診者の約30%が腹部超音波検査や腹部CTで検出可能な脂肪肝を伴っており、その頻度は増加しています。
健診受診者におけるNAFLDの有病率は男性約40%、女性で約20%です。
NAFLDの約70%を男性が占めますが、NASHの頻度に男女差はないと言われています。
NAFLDにおけるメタボリックシンドロームの診断基準に基づく脂質異常症、高血圧、空腹時高血糖の合併頻度は各々約50%、約30%、約30%で、メタボリックシンドロームの合併率は約40%です。
NASHにおける脂質異常症、高血圧、空腹時高血糖の合併頻度は各々約60%、約60%、約30%で、メタボリックシンドロームの合併率は約50%です。
※2 BMIとは:body mass indexのこと。BMI (kg/m2) =[体重 (kg)] / [身長 (m)]2 で算出されます。我が国では肥満はBMI≧25と定義されています。また、BMIが22 kg/m2で有病率が最小になることより、これに相当する体重を理想体重と定義しています。
[3] 臨床症状
一般的にNAFLD/NASHは無症状のことが多いです (48〜100%) 。症状としては倦怠感が最も多く、倦怠感の強さと身体の活動性の低下が関連すると言われています。
NAFLDでは自律神経失調症が多く、倦怠感は起立性低血圧や夜間低血圧などの自律神経失調症状と関連していると言われています。
NASH患者は、健常者に比してうつや不安症状などの精神症状の割合が高いという報告もあります。
肝硬変になると、クモ状血管腫、手掌紅斑、腹水、黄疸を認める事があります。
[4] 非アルコール性脂肪肝炎の検査
血液検査
1)肝機能検査について
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ASTとALT : 肝細胞が壊れているかどうかを調べる最も基本的な検査です。正常では両方とも30 IU/L未満です。NAFLDではAST、ALTの軽度上昇例 (2〜4倍程度) が多く、ALT>ASTのことが多いです。一方NASHではNAFLDに比し、AST、ALTの高値例が多くみられます。
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ALP:胆道系酵素の一つで、胆管に障害があると上昇します。腫瘍がある時にも異常値を示すことがあります。
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アルブミン:アルブミンは肝細胞で産生される主要なタンパク質です。基準値は3.8〜5.3 g/dLです。アルブミンが低下していると肝細胞の合成能が低下していることを意味します。
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プロトロンビン活性:70〜140%が基準値です。凝固因子の半減期は数時間しかありません。低値を示す場合は、その時点での肝臓の蛋白合成が低下していることを意味します。
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血小板数:血小板数は肝臓の線維化の進行とともに低下することが判っています。
肝臓の線維化は病理学的にF0(線維化なし) 、F1(軽度の線維化)、F2(中等度線維化)、F3(高度線維化) 、F4(肝硬変)と分けられます。
NASHにおいては血小板数が19万以上であればF0〜F2、19万以下であればF3、15万以下であればF4と大凡推測されます。血小板数15万以下は肝硬変の可能性ありと覚えてください。
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また、線維化が高度になると、白血球数や赤血球数も低下します。これを汎血球減少と言います。線維化が高度になっていることを示します。
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肝線維化マーカー:特にNASHの線維化進展例においてはヒアルロン酸やIV型コラーゲンなどが高値になります。
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肝線維化予測としてはNAFLD fibrosis scoreやFIB-4 indexが有用です。
画像検査
1)超音波検査
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肝臓の画像検査としては超音波検査が一般的です。
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X線を使いませんので被爆することはありません。
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超音波検査では、肝臓の変形や表面の凹凸、脂肪沈着などがわかります。また、肝臓の周辺臓器である、胆のう、膵臓、脾臓、腹部動脈、リンパ節、骨盤腔内臓器、腹水などが同時に観察されます。
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超音波検査による脂肪肝の検出力はCTやMRIに比べて高いと言われています。
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肝臓の検査で肝生検を行なうときは超音波画像を見ながら行ないます。また、肝がんの治療でラジオ波焼灼療法 (FFA) 、エタノール注入療法 (PEIT) を行なう際も超音波画像を見ながら行ないます。従って、腫瘍等が超音波で見えるかどうかは重要なのです。
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超音波検査は使用する機器や技師さんの技量で検出率が異なります。
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また、横隔膜の近くは観察がしにくいという欠点があります。
2)CT検査
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CT検査はX線を使いますが、短時間で肝臓全体、さらには腹部全体の様子を観察できます。
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腹部CT検査も脂肪肝の診断に有用です。
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但し、腹部単純CTでは肝臓の腫瘍を検出できない場合があります。
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肝がんの診断や、治療後の経過観察、また、血管腫などとの鑑別のためには造影CT (ダイナミックCT) 検査を行ないます。
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但し、腎機能が悪い場合や、造影剤にアレルギー反応がある場合は造影検査ができませんので、主治医とよくご相談ください。
3)MRI検査
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MRI検査とは核磁気共鳴画像法の意味です。CT検査よりは時間がかかりますが、肝臓全体、さらには腹部全体の様子を観察できます。
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腹部MRIも脂肪肝の診断に有用です。
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最近、MRスペクトロスコピー(magnetic resonance spectroscopy; MRS)の脂肪定量法として有用性が明らかにされてきました。
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体の内部に手術等で金属片が留置されている場合は、MRI検査自体ができませんので注意が必要です。
4)肝生検
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肝生検は、肝臓に針を刺して肝臓の組織の一部を取る検査です。肝臓は血流が豊富な臓器ですので、多くの病院では短期入院をして頂いています。
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肝生検の目的は@NASHとNAFLの鑑別診断、A重症度 (主に肝臓の線維化進展度) の把握・診断、B治療効果判定の3つが挙げられます。
[5] 非アルコール性脂肪肝炎の治療
NAFLDの治療は、メタボリックシンドロームの制御と肝障害の進展予防が主眼になります。特にNASHは、肝硬変への進展や肝発癌のリスクになるため、積極的な治療介入を行うべきです。NAFLDに対する治療の原則は食事・運動療法などの生活習慣改善により、背景にある肥満、糖尿病、脂質代謝異常、高血圧を是正することです。体重減少がNAFLD/NASHの肝機能および肝組織改善に有効であることは示されていますが、現状では体重減少以外の生活習慣への介入や薬物治療等の治療において、評価が定まったものはありません。
1)食事・運動療法
(a) 食事療法
標準体重あたりの総カロリーは25〜35 kcal/kg/日、蛋白質は1.0〜1.5 g/kg/日に制限します。脂肪は飽和脂肪酸を抑え、総カロリーの20%以下に制限します。
(b) 運動療法
ウォーキング、ジョギング、水中運動などの有酸素運動を勧めます。毎日20分程度の有酸素運動が最も勧められています。
2)薬物療法
(a) ビタミンE
非糖尿病合併NASH例においては、現状ではビタミンEが第一選択になります。一方、肝生検未施行例や肝硬変症例などへの投与は推奨されていません。
(b) オベチコール酸 (Obeticholic acid: OCA)
米国において、プラセボと比較して病勢の改善のみならず、肝線維化の改善効果も示されており、わが国でも第V相の臨床治験が予定されています。